今まで、仕上節の製造工程を説明しました。なまり節、荒節、裸節、仕上節といわば出世魚の様に鰹節は製造の途中で名前が変わります。出世魚がそうであるように、鰹節も各段階別にそれぞれの用途があり流通しています。当然、全ての鰹節が仕上節の様に手間暇かけて丁寧に作られているのではありません。荒節は荒節専門の製造家が作り、仕上節は仕上節専門の製造家が作ります。ここでは製造段階別というか製造方法別の鰹節類について説明します。
1.荒節(あらぶし)
焙乾が終了した節が荒節です(カビは一切ついていません)。いわゆる「花かつお」の原料の為に製造されています(もっとも生産量が多い節です)。JAS規格による一括表示(削り節の袋の裏面にある表示)では原材料名として「かつお・ふし」と表示されています。
荒節は荒節のまま皆様の前に届きません。常に削った状態で小売市場に出回るので、曲がっていようが小骨がついていようが、削り節になってしまえばわかりません。結局は粗製濫造になってしまいました。大量生産されている荒節の「生切り」工程は仕上節のそれとは違います。荒節の「生切り」は頭をとって、内蔵を取り出すだし、背びれをとって終了です(殆ど機械で行います)。「身おろし」をしないで、その代わりに、後で加工がしやすいように鰹に切れ目を付けるだけです。簡単に言うと、鰹をほぼ「丸のまんま」で煮熟して、「骨抜」の段階で2つないし4つに割ります。また、その時小さな骨は抜きません。焙乾も短時間に終了させるため、「あん蒸」と言うよりも急速冷却をします。ここで申し上げた工程は、もっとも大量生産がすすんでいる製造家のやり方ですが、荒節は(製造家によって)大なり小なり簡素化された(極力手をかけない)工程で製造されています。いずれにしても荒節専門の製造家が作る荒節と仕上節専門の製造家で製造途中で出来上がる荒節は「似て非なる物」とお考え下さい。
このようにして製造された荒節は、脂肪分の多い質の悪い節と脂肪分の少ない質の良い節に分けられます。質の良い節はそのまま削り節メーカーへ送られ、花かつお(薄削り)に加工されます。質の悪い節は後に説明する「かび荒」や「荒仕上節」に製造家の元で更に加工されます。質の悪い節の一部は削り節メーカーが厚削り用の原料として買います。スーパーなどで市販されている厚削り(裏面の表示が「かつお・ふし」の物)は、このタイプの原料がつかわれています。
また、荒節はめんつゆメーカーにも供給されています。めんつゆを鰹節のだしだけで作ると、原材料コストが大きくなるので、荒節はここでも人工的なだしの風味を補完させる用途で使われているようです。
荒節はカビのついている枯れ節ではありません。荒節の風味は枯れ節に比べると鮮烈です(味や香りは強いと感じられる方が数多くいると思います)。その代わり量を入れすぎたりだしをとるときに長く煮だすと、生臭く感じる方や鰹節の味が強すぎると感じる方が出てくると思います。本来、荒節と枯節とではだしの取り方は違うのではと思っています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
■カビの効用について
- 節の内部の水分を取り去り、保存性を高める。
- 節に含まれる不飽和脂肪酸を分解する。
(酸化とは不飽和脂肪酸の酸化を指します)。
不飽和脂肪酸はだし汁の濁りの原因のひとつです。
酸化した不飽和脂肪酸は風味を劣化させます。
- 鰹が本来もっているアンモニア等の悪い香りを発生させる成分を
取り除き良い香りを醸し出す成分を鰹節に付けます。
- 結果として、カビを付けた枯れ節はカビを付けない荒節や裸節よりも
まろやかな味と香りを醸し出すと言われいます。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2.カビ荒(かびあら)
荒節にカビを付けた節です。JAS規格による一括表示(削り節の袋の裏面にある表示)では原材料名として「かつお・かれぶし」と表示されています。カビ荒は荒節の表面に付着しているタールをそのままに(削り取らずに)してカビを付けた節です。通常は2回ほどしかカビ付けをしないので「本枯れ」ではありません。JASの規格では2回カビをつけると「かれぶし」の表示が許されます。カビ荒も荒節専門の製造家が作る節です。出来上がった荒節の中で脂肪分が多すぎる質の悪い物を通常はカビ荒にします。業務用の厚削り(枯れ節を使った物)の安いものはこのカビ荒が使われています。
カビ荒はタール分の上からカビをつけます。ですから、カビの効用がどの程度効果的であるのかは疑問です。
3.荒仕上節(あらしあげぶし)
荒節の表面に付いているタール分を削り取り、カビを付けた節です。JAS規格による一括表示(削り節の袋の裏面にある表示)では原材料名として「かつお・かれぶし」と表示されています。荒仕上節も荒節専門の製造家が作る節です。
よく市販されている5gパックの小さな削り節や裏面の表示が「かつお・かれぶし」になっている花かつおの原料です。業務用では、枯れ節を使った厚削りの原料となります。
そこそこ丁寧に作った荒節を荒仕上節にすれば、本物の仕上節に近い節になるのですが、通常は、カビ荒同様、荒節の中で脂肪分の多い質が悪い節が荒仕上節になるので、実際は仕上節にはまだまだ遠い節です。
4.裸節(はだかぶし)
仕上節製造家が仕上節を作る工程で出来上がる荒節の表面に付いているタール分を削り取った節です。江戸時代の前期の鰹節はこの裸節でした。現在は九州、沖縄地区で流通しています(若干乾燥度が低いので生臭く感じる方もいるかもしれません)。本来的には、カビの効用を比べるにはこの裸節と仕上節を比べないとフェアーな比較にならないと思います。数年前、土佐清水の製造家に近海の鰹を原魚とした亀節をつくってもらいました。製造途中の裸節を送ってもらって削って食べたのですが、香りは強いし味も濃いのです。土佐は鹿児島に比べ日乾を強くするので、生臭くありませんでした。数ヶ月後、本枯れになった亀節が来たのですが、香りも味も薄いのです。だしをとるとまろやかでおいしいのですが、食べたときの風味の鮮烈さは裸節の時のほうが旨いと感じました。
5.仕上節(しあげぶし)
本節や亀節のことです。当然JAS規格でも「かつお・かれぶし」の表示になります。JAS規格では2番カビを付けると枯れ節と呼べることになっていますが、通常の仕上節は3番カビまでは付けてあるはずです。仕上節は荒節と違ってとにかく丁寧に作ります(形状が悪いと商品価値がないので)。鰹節は生を切って、煮て、焙乾、削り、カビ付けをすれば出来上がります。荒節製造家の作る荒仕上節も丁寧さはともかく同様の工程を経るのですが、やはり丁寧に作った仕上節はおいしいのです(中には変なのもありますが)。少量生産なので、煮熟にしてもしっかり鰹が煮え、焙乾にしてもしっかり火が入る−−−このあたりが少量生産ゆえの品質管理の違いであると思います。また、製造途中で質や鮮度が劣る節をはねてしまうので、製品として出来上がるときは悪い物は少なくなるのです(このへんは各製造家のモラルにもかかっています)。
やけに長くなりましたが、荒節の製造の仕方と仕上節の製造の仕方は一見同じようで相当違うと言うことをご理解いただければと思います。