鰹節の話  その1 仕上節の製造工程

鰹節の基本は、やはり本枯(ほんがれ)の本節や亀節です。業界ではそれらを総称して仕上節(しあげぶし)とか磨節(みがきぶし)と呼んでいます。

ここではいわゆる「本枯れの仕上節」の製造工程を説明します。

 

生切り
(なまぎり)

籠立て
(かごだて)

煮熟
(しゃじゅく)

骨抜き
(ほねぬき)

焙乾
(ばいかん)

削り
(けずり)

カビ付け
(かびつけ)
 

 

以上が一般的な製造工程です。鰹節には色々な種類があるのですが、全ての節類は少なくても焙乾までの工程は施されます(当然、種類によって各工程にかける手間暇は違います)。

昔であれば3月の初鰹を切り、真夏の太陽の下で干しながらカビをつけ9月に本枯節が仕上がりました。本枯れの状態になるには最低でも半年は必要です。現在では遠洋漁業による鰹が一年中手に入るので、製造家は一年中鰹を切っています。冬場にカビつけをした節はどうしても乾燥が甘いようです。

では順をおって製造工程を説明しましょう。

1.生切り(生切り)

昔は近海の鰹しか鰹節にならなかったので、水揚げの後、すぐに生切りの作業に入りました(繁忙期は鰹が腐らないように夜を徹して切っていたようです)。しかし遠洋漁業による凍結された鰹を使うようになると、生切りの前に解凍しなくてはなりません。通常は、鰹を水に一晩つけて解凍するようです。

先ずは生の鰹の頭を落として、腹の部分を三角に切って内臓を取り出します。次に「身おろし」をして鰹を三枚におろします(当然骨は捨てるので身は2つになります)。小さい鰹の生切りはこれで終了です(亀節になります)。大きい鰹は、さらに、血合い部分を境に背の部分と腹の部分に切り分けられます。この作業は「合断(あいだち)」と呼ばれています。大きい鰹の身は4つに分けられ本節(背節と腹節が各々2つずつ)になります。昔は生切りは全て手作業で行われていたので、頭切り用、身おろし用、合断用の3種類の包丁を使っていました。現在でも手作業だけで生切りしている製造家が数少なく残っていますが、作業効率の為に多くの製造家が機械を導入しています。もっとも簡素化された製造方法では、全て機械が身おろしをしてしまいます。

2.籠立て(かごだて)

「生切り」された鰹の身を一つ一つ丁寧に金属製の籠に並べる作業です。単純そうな作業ですが、乱雑に行うと形のよい仕上節はできません。

3.煮熟(しゃじゅく)

鰹が「籠立て」された籠を10枚程度重ねて煮釜に入れます。煮釜には90℃程度の湯が入っています。鰹の大きさに応じて1時間から2時間煮ます。鰹の腐敗を防止すると同時にタンパク質を完全に熱凝固させるために、煮熟します。余談ですが、煮汁は、鰹エキスメーカーが集め、濃縮して鰹エキスになります。鰹節以外の物質から化学の力で作り出されるアミノ酸(イノシン酸等)から製造される液体だしの風味を本物の鰹節に近づけるためにこの鰹エキスは使われています。煮汁で鰹節の風味なんてでる訳ないと思うのですが。

4.骨抜き(ほねぬき)

「煮熟」が終わった鰹を水槽に入れて、「骨抜き」作業を行います。この工程では、先ず皮の約2/3をはぎ取り、皮下脂肪を取り去ります。次に残っている小骨を取り去ります。この工程だけは機械化が難しく、全て手作業で行われています。この段階できた節が、「なまり節」です。なまり節は再び籠に丁寧に並べられます。

5.焙乾(ばいかん)

一口に言えば「なまり節」を燻製にする作業です。カシ、ナラ、クヌギ等の堅木を燃やして煙と熱を「なまり節」にあてます。一度焙乾すると節の表面から水分が抜けます。これだけでは節の内部に水分が相当量残っているので、鰹節にはなりません。焙乾した節を常温で置いておくと節の内部の水分が表面にでてきます。これを「あん蒸(あんじょう)」と呼んでいます。節の内部の水分が30%以下になるまで、焙乾とあん蒸を何度も繰り返します(「なまり節」の状態では水分量が70%弱です)。節の大きさ、季節等により6回から15回程度繰り返すのです。こうして焙乾を終えた節の表面にはタールが厚く付着しています。このタールが焙乾中の節の酸化を防ぎます。この段階の節は「荒節(あらぶし)」と呼ばれ、一般的に市販されている「花かつお」の原料となります。

6.削り(けずり)

焙乾を終えた荒節は一日程度天日で干され、その後冷暗所に放置されます。そして表面に湿気が帯びてきたら、荒節の表面に付着しているタール分を削り取る作業が始まります。この工程を「削り」と呼んでいます。この工程は仕上節の形を最終的に整える作業ですから、製造家の技が試される重要な工程です。昔は小刀でタールを削っていたのですが、現在ではグラインダーのような機械(円盤の外周に紙ヤスリのようなものを付け、円盤をモーターで回しながらタールを削りとります)を使います。タール分が削られた節の表面は茶褐色を呈します。この状態の節は「裸節」と呼ばれています。江戸時代前期、未だカビ付けの技法が考案される前は、鰹節と言えばこの「裸節」のことでした。現在でもこの裸節は一部地域で流通していますが、殆どが乾燥度の低い(簡単にナイフ等で削れるほど)節です。

余談になりますが、削り取られたタール分も、化学の力で作り出される液体だしに本物のような風味を付けるために、再利用されています。タール分には燻しの香りが沢山残っています。どうも燻しの香りを添加すると鰹節の香りだと多くの人々は勘違いをするようです(少なくとも食品メーカーはそう考えているようです)。いわゆる和風調味料メーカーもこの燻しの香り(燻臭と呼んでいますが)を添加するために特別仕様の鰹節を使っています。

7.カビ付け

裸節に数回カビを付けることのより、節の内部の水分量を18%程度まで落とす作業がこのカビ付けです。まずは、裸節を2日程度天日に干します。この作業は「日乾」と呼ばれています。日乾された裸節を「むろ」と呼ばれる風通しの悪い部屋に入れカビか付くのを待ちます。最初に発生したカビは「一番カビ」と呼ばれ、カビが節の表面についた段階「むろ」から取り出し、2日程度天日で干してから、カビを落とします。そして再び「むろ」に入れカビを付けます。カビを付けて節の表面の水分を吸い取り、日乾して節の内部の水分を表面に出し、再びカビを付けて表面に出てきた水分を吸い取ります。日乾とカビ付けを4回ほど繰り返すと、節の内部の水分が少なくなりカビは付かなくなります(カビの発生には水分が必要なのです)。言い換えれば、カビが付かないほど節が乾燥した時点で「本枯節」は完成となります。

昔は初鰹を生切りして鰹節を作っていたので、カビを付けるころはちょうど梅雨にさしかかり、「むろ」と呼ばれる風通しの悪い部屋を密閉して裸節を放置しておけば、むろは高温、多湿の状態になり、カビが発生しやすかったのですが、一年を通して鰹節を作っている現在では、人為的に高温多湿の部屋を作りカビをとっている製造家も少なくありません。

鰹節に付くカビはどこから来るのでしょうか?昔ながらの鰹節づくりでは、個々の製造家の納屋(工場)に住んでいるカビ菌が鰹節につきました。いまでも昔ながらに家付きのカビ菌を自然の状態で鰹節につけている製造家もいるのですが、均一な製品を早く大量に作りたい製造家は、人為的に培養されたカビ菌を鰹節に噴霧し、温度と湿度がコントロールされている部屋でカビを付けをしいます。

これで一応「生切り」から「カビ付け」まで、本枯の仕上節の製造工程を簡単に説明しました。仮に10Kgの生の鰹を切ると、荒節の段階で2Kg、そして、本枯の仕上節の段階で1.6Kgの重さの節にしかなりません。個々までの状態になるまで最低でも6ヶ月間は必要です。

 

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