鰹節の話  その6 削り節の製造方法

削り節と一口に言ってもいくつかタイプがあります。製造方法をお話しする前に、どんな削り節があるのか説明します(とりあえず一般的なもので5種類)。

1.薄削り

「ひらひら」しているいわゆる花かつおのタイプです。JAS規格では0.2ミリ以下に(厚さが)削ってあるものを薄削りと呼んでいますが、現実的に市販されている薄削りの厚さは0.03ミリから0.1ミリ程度です。

A.0.03ミリから0.04ミリの薄削り

スーパーで小売りしている花かつおは大体このあたりです。業務用でも関西で「花もの」と呼ばれている削り節はこの厚さになります。「花もの」はお好み焼きの上にかけたり、うどんの上にかける削り節で、だしをとるものではないのです。鰹節は薄く削れば削るほど良いと考えている方が多いとは思いますが、スーパーで小売りしているものを含めて、この極く薄い削り節はだしをとるのには不向きです。0.03から0.04ミリの削り節を作るには極端に脂肪分が少ない原料を使わなくてはなりません。脂肪が少ない節は味が薄いのです。また薄く削りば削るほど「かさ」が増します。同じ一掴みの削り節でも薄い削り節の方が重さは軽くなります。逆に言えば、同じ重さの削り節を鍋に入れる場合に、薄い削り節の方が大きい鍋が必要になります。だしオフでこの量感違いをお見せできればとも思っています。

B.0.05ミリから0.06ミリの削り節

我々築地の鰹節屋が業務用(だし用)に製造している削り節はこのあたりの厚みです(中には0.08ミリから0.1ミリ程度で削っているところもありますが、このあたりが各お店の戦略となります)。このあたりの厚さだとそこそこの脂肪分を含んだ節も削れます。ちなみに関西ではだし用の削り節は薄削りではなく粉状の削り節になります(「花もの」に対して「だしもの」と呼んでいます)。

2.厚削り

JAS規格では0.2ミリ以上の厚みをもつものを厚削りと呼んでいますが、実際には0.8ミリから1ミリ程度の厚みで削ったものが市販されています。関東のお蕎麦やさんの多くはこの厚削りを使って、だしをとります。さすがにこの程度の厚みになると時間をかけないとだしがでません。40分程度は煮つめています。

3.糸削り

カンナに溝をつけて、糸状(またはひも状に)削ったものです。薄削りを糸状にしたものとお考え下さい。昔はガラスの破片を使って板前さんが糸削りを自分で作り、おひたしの上にかけたりしていたのですが、今は削り屋が機械で作っています。食べるための削り節です。

4.破砕

薄削りを細かく裁断したものです。よくスーパーで売っている小袋(5g程度)のやつです。これも食べるための削り節です。

皆さんが自分で仕上節を削ると、0.1ミリ前後の削り節が出来上がります。来店する方に、しばしば、店頭の薄削りの様に削るにはどうしたらいいのか質問されますが、仕上節をそのまま人力だけで削り限り無理な相談です。0.5ミリの薄削りも1ミリの厚削りもできません。実は戦前にうちの店で削っていた削り節はこの0.1ミリ程度の削り節だったそうです。つまり昔は極めて自然の感じで削り節を作っていたのが、今日のようになってしまったようです。と言うことで、次には如何にして不自然な(ARTIFICALな)削り節を製造するのかをお話ししましょう。

5.粉末

粉状の削り節のことです。粉状の削り節には2種類あります。副産物としての粉と作る粉です。

a.副産物としての粉

鰹節を1Kg削ると通常は850gから900gの削り節が出来上がります。小さく削れてしまったものを製造中にふるいにかけて、取り除くとこんな出来上がりになります。このふるった粉が副産物の粉です。節のもっている脂肪分が粉になりやすいので、副産物の粉は普通の削り節より脂の多い削り節です。

 

b.わざわざ作る粉

普通に削り節をつくり、出来上がったものを機械で細かくします(破砕よりもずっと細かい)。うちの店でも粉を2種類ほど売っていますが、副産物の粉だけでは足りないので、わざわざ作っています。

もう一つ、脂肪分が多めの原料を削り、ふるわないで削り節を製造すると粉が多い非常に小さい削り節が出来上がります。さば、いわし等を使うことが多いのですが、これが関西で言う「だしもの」になります。関西のうどんやさんはこれを使っているようです。

------------ 補足説明 -----------

荒節を薄く削れる限度は0.03ミリ程度が限度です。削り節屋も商売ですから、歩留まりを考えながら削り節を作ります。削り節を製造するときに、先ず、この0.03ミリの薄さを一番に考えると(このあたりの厚さに削らないとお好み焼きの上で削り節は踊りません)、極力脂肪分が少ない原料を選択せざるを得ません(一定の歩留まりを確保したければ)。歩留まりを落としても採算が合いながら薄さを追求する方法は、乾燥の悪い安い原料を使う方法なんですが、これでは鰹節の品質が落ちます。奥の手として、普通の原料を水に一晩つけて乾燥度を相当下げ(目方を上げて)歩留まりを確保する方法もあるのですが、消費者の方にすればルール違反の感じがするでしょうし、出来上がりの削り節は湿っぽくなります。

いずれにしても、お好み焼きの上で踊るような削り節を作るには(原料相場が急落すれば別ですが)、若干の仕掛けが必要になります。と言うことで、0.03ミリから0.04ミリの薄削りはだしをとるには不向きと申し上げたのです。だからといって大阪でいうところの「花もの」でだしが全くとれないわけではありません。しっかりとしただしをとるための削り節と踊る削り節を両立させるは難しいとご認識頂ければと思います。(結局は築地の削り節はだしをとることを第一に考えていると、我田引水的な発言でもありますが。ちなみに弊店では踊る削り節を求める方のために別途薄い削り節も用意してあります。)

これから削り節の製造方法の説明をしますが、我々削り屋は「見た目に美しくするために」ありとあらゆる手段をとります。種明かしが過ぎると業界的に怒られるので、適当なところでご勘弁下さい(すでに大阪の鰹節屋には怒られてしまうかもしれませんね)。

原料の洗浄−−加熱−−放冷−−切削−−袋詰め

以上が一般的な製造工程です。以下に順を追って説明します。

1.洗浄

枯節にはカビ(タールもついている場合もあります)が、荒節にはタールがついているので、まず最初に原料を水洗いします。当然、機械で洗うのですが、農家が人参を洗う機械のブラシを堅いブラシに交換した機械が現在では一般的です。

2.加熱

洗った原料を加熱します。加熱の目的は原料の殺菌と軟化です。加熱した直後は節が相当柔らかくなりますので、この段階で削ると相当歩留まりが良くなるのですが、削り節の色が赤茶色になってしますので、普通は次の「放冷」の工程を経てから削ります。ただ、枯れ節の薄削りを安価に製造するためには、加熱して余分な湿気がなくなり次第削ります(だしオフに持ち込むの近海鰹荒仕上節の削り節はこうしてつくるので、色が悪いのです。説明しないと売れません)。また、削り節の色が問われない厚削りや鰹、鮪以外(さば、宗田等)の薄削りは加熱の後、放冷をしないで、削ります。

加熱の方法は蒸気をあてて加熱する方法と遠赤外線をあてて加熱する方法があります。蒸気をあてると原料の旨味成分が熔けだしてしまうので良くないと言う方がいるのですが、実際に蒸かし終わって残った水分の中身を測定すると旨味成分は検出されません。遠赤外線をあてて加熱すると原料のもつ不飽和脂肪酸(酸化のもと)を焼き切ってしまうと言われています。現実的には100%焼き切ってしまうわけではないようです。脂肪分を多く含む原料を使う厚削りには効果があるようですが、脂肪分が基本的には少ない薄削りの原料には、人間が感じるほど効果はないようです。

3.放冷

余分な湿気を取り除いた後(蒸かして加熱すると余分な水分が加わるので飛ばします)、常温で1晩から2日置いて温度を下げます。鰹節は40℃以上の状態で削ると色が赤茶けて削れてしまうので、放冷が必要です。

放冷をすると、加熱により軟化した節が再び固くなるのですが、時間をかけて放冷することにより、節の内部の水分の分布が均一になり、削りやすくなります(加熱をすると節の中心部に多く分布していた水分が外に出始めます。時間をかけて放冷すると、削る頃には水分の分布が均一になります)。

4.切削

放冷した原料を削り節製造機で削ります。円盤に超硬刃と呼ばれるカンナはを十数枚取り付け、円盤を回します。コンプレッサーを使い相当な力で原料を円盤にあてて削ります。円盤に取り付ける刃の出し具合で薄削りになったり厚削りになったりします。糸削りは、スリットがはいったカンナ刃を円盤に取り付けます。

5.袋詰め

削りたては、まだ熱をもっていて湿り気が若干残っているので、短時間のうちに熱を下げ余分な水分をとり、袋詰めして出来上がりです。薄削りは削り節製造機から袋詰めをするところまで粉をふるわれながら運ばれれば、その時間程度で熱もとれ余分な水分もなくなりますが、厚削りはエアコンの大がかりな機械で急速冷却します。

以上が一般的な削り節の製造方法です。我々削り屋はこのような方法で「歩留まりがよく、見た目が美しい削り節」を作っています。本来は、「おいしい削り節」を製造するのが削り屋の仕事なのでしょうが、プロも含めてお客さんは「見た目に美しい削り節」を求めがちなので、商売としては難しいところです(時として「おいしい削り節」と「見た目に美しい削り節」は相反するのです)。

余談になりますが、海産物の価格は究極的には「見かけ」で決まってしますところがあります。昔でしたら、良質な素材をそこそこ丁寧に加工すれば「見かけ」に美しい加工食品が出来上がったんで、それでよかったのですが、製造家は馬鹿ではないので、加工技術の進歩とともに悪い素材を加工して「見かけ」に美しい加工食品を作る技術が発達してしまいました。「旨い本節は見かけが良い」のですが「見かけが良い本節が旨い」かと言うと旨くない場合もあるのです。ですから、ここ数年、私が鰹節を仕入れる製造家は限られてしまいました。嘘を言わない真面目な製造家に原魚の出所を聞いて、それから品物を見て仕入れています。多少、割高なのはいたしかたないと考えています。(それでも多少は当たりはずれがあるところが海産物なんですが)

皆様が料理をする際はいろいろな素材を買うと思いますが、見かけや価格だけにとれわれず、信用のできる小売店をみつけて買っていただければと思います。鰹節については今までの話を予備知識としてもっていれば、充分、信頼のできるお店が見つかるはずです。さりげなく小売店の方に質問して下さい(ただ、これだけの知識を従業員の一人一人がもっている鰹節屋はいないかもしれませんが、うちだって無理ですから)。

   

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